コラム「一休さんと一休み」
以前にも書きましたが、棺の中には副葬品といって故人の愛用していたものを納めることをします。ただし、金属類やガラス類、カーボン製品など燃え残ってしまう物などは納められません。
ある葬儀で、喪主に質問されました。
「金子さん、親父はウイスキーがとても好きだったんですよ。特にこのオールドパーがね。これを一緒に持たせてあげたいんだけど、これは棺の中にはいれられますかね?」
「いやぁ、お気持ちはわかりますけど、ガラス瓶は燃え残って、御遺骨にくっついてしまいますので無理ですね。納められません。」
「そうですか…。どうしても入れてあげたいんだなぁ…。親父には、むこうにいってから何にも気にせず飲んでてもらいたいんですよ。あっ!そうだ、じゃぁ、小さい瓶、ミニチュアのボトルぐらいならいいですかね?」
「いいえ、それもだめですね。とにかく燃え残ってしまうものはだめなんです。よくお酒の好きだった方は、紙のパックに入った日本酒を納める方がいらっしゃいますけど。そういうものでしたらいいですよ。」
「いや、親父は日本酒は飲まなかったんですよ。とにかくこのオールドパーが好きだったんだ。でも紙パックのオールドパーは売っていないしなぁ…。」
そういって、残念そうにしていました。
告別式の時、読経も終わりお別れの献花を始める時です。お孫さんが何やら大事そうに棺に納めるものをお持ちになりました。それは、一つの紙コップでした。紙コップの口には、ラップがされていました。そして、その中にはウイスキーの水割りが入っていたのです。そしてそれを、故人の口元にそっとおかれました。私は感動しました。そして同時に反省しました。なぜ、私は聞かれたときに、簡単に駄目ですと言ってしまったのか、いつも心がけているように、お身内の気持ちを一番に考えて、もう一歩踏み込んで考えられていればと。しかし、故人のことを一番大事に思っているお身内だからこそ、その一歩が出たのかもしれない。お身内が故人を思う気持ちは、誰よりも強いのでしょう。その時、私はこれからその気持ちを少しでも汲み取れるような葬儀屋になりたいと思いました。
ご葬儀代の集金のときそのことをお話しました。
「あの紙コップの水割りに感動しました。よく考えられましたね。」
「いやぁ、あれは金子さんが言ってくれたんじゃないですか。」
「そうでしたっけ? いや私はことわってしまったと思うんですけど…」
「金子さんが 紙のいれものならばいいと言ったじゃないですか。
それでね、あんな形にしたんですよ。ありがとうございました。」
「いいえ、とんでもない。」
私は、恥ずかしくなりました。そして、気持ちのやさしいお身内に対して、感謝し感謝いたしました。
葬儀にはお身内しかわからない、様々な物語があります。その物語のなかで、人は涙を流し、それによって心が癒されるものでしょう。どうぞ、ご葬儀に望まれる方は物語を作っていただきたいと思います。私も微力ながらそのお手伝いが出来るような葬儀屋になれるように、頑張ります。
代金をいただいて、故人の御遺骨にお線香をあげました。手を合わせて顔を上げると、にこやかな顔をされた遺影の横には、オールドパーが置いてありました。